しばらく数学をやる上で必要なお作法が続きます.

行列というのは,何かを長方形の形に並べたものを指します.何か,というのは大学一年では実数,あるいは複素数を考えます.実数全体の集合を\(\mathbb{R}\),複素数全体の集合を\(\mathbb{C}\)とかき,実数を縦に\(m\)個,横に\(n\)個並べた行列全体の集合を\({\rm M}(m,n;\mathbb{R})\)と書きます.特に大事になってくるのが,縦も横も\(n\)個並べた行列です.正方形の形をしているので,こういうものを正方行列といいますが,そのような行列全体集合は\({\rm M}_n(\mathbb{R})\)と表すこととします.しばらくは実数でも複素数でもどちらでも良い議論が続くので,以後\(\mathbb{K}\)と書いたら,それは\(\mathbb{R}\),\(\mathbb{C}\)のどちらか一方を表すものとします(どちらを考えてもいいということです).

行列の表し方として,\(A=(a_{ij})\)という表し方があります.数列では,\(\{a_n\}\)という表し方がありました.これは第\(n\)項が\(a_n\)で表される,という意味で例えば\(\{2n+1\}\)と書けば\(1,3,5,7,…\)という数列を表しました.行列の場合も同じで,\(i\)行\(j\)列の成分を\(a_{ij}\)と表すということを\(A=(a_{ij})\)と書きます.

Ex)\[
A = \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 3 \\
4 & -1 & \pi \\
0 & e & \sqrt{2}
\end{array}
\right)\]
とすると,\(A\in {\rm M}_3(\mathbb{R})\)です.\(A=(a_{ij})_{1\leq i,j\leq 3}\)とすると,\(a_{13}=3\)です.また,\[
B = \left(
\begin{array}{ccc}
1+i & 2 & 9-2i \\
i & -1 & \pi \\
\end{array}
\right)\]
とすると,\(B\in {\rm M}(2,3;\mathbb{C})\)です.

高校で習ったベクトルも行列の一種です.\[
\left(
\begin{array}{cc}
1\\
2 \\
\end{array}
\right)\]などの平面ベクトルは,2行1列の行列です.




行列の演算

行列の演算には,和・差・積・スカラー倍があります.注意すべきことがあります:
・商に対応する演算はありません.
・和と差は,同じ形の行列でなければ出来ません.
積の交換法則は成り立ちません. \(A\)という行列と\(B\)という行列の積を考える場合,\(A\)の列の数と\(B\)の行の数が等しくなければなりません

それを押さえた上で順に説明していきます.
・行列の和と差は,同じ形の行列に対して,対応する成分の和を並べるだけです.\[
\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 \\
4 & -1\\
\end{array}
\right)+\left(
\begin{array}{ccc}
4 & 3 \\
1 & 2\\
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{ccc}
1+4 & 2+3 \\
4+1 & -1+2\\
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{ccc}
5 & 5 \\
5 & 1\\
\end{array}
\right)\]\[
\left(
\begin{array}{ccc}
5 & 3 \\
1 & -2\\
\end{array}
\right)-\left(
\begin{array}{ccc}
8 & -6 \\
5 & 4\\
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{ccc}
5-8 & 3-(-6) \\
1-5 & -2-4\\
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{ccc}
-3 & 9 \\
-4 & -6\\
\end{array}
\right)\]
・スカラー倍は,すべての成分を定数倍する操作です.ベクトルでも\(2\overrightarrow{a}\)と書くと,各成分を\(2\)倍する演算であったのと同じです.\[
3\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 \\
4 & -1\\
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{ccc}
3 & 6 \\
12 & -3\\
\end{array}
\right)\]
・最後に難しい積について説明します.\(m\)行\(n\)列の\(A\)という行列と\(p\)行\(q\)列の\(B\)という行列の積を考える場合,\(n=p\),すなわち最初の行列の列数と,後の行列の行数が同じでなければなりません.それ以外の場合,積は計算できません.そして,積の結果得られる行列は,
\(m\)行\(q\)列になります.
このとき,\(A\)と\(B\)の積はどうなるかというと,\(AB=C=(c_{ij})\)とおくと,
\[ \displaystyle c_{\class{mathbg-g}{i}\class{mathbg-b}{j}}=\sum_{k=1}^n a_{\class{mathbg-g}{i}k}b_{k\class{mathbg-b}{j}}\]で計算されます.

Ex)
\[
\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 \\
4 & -1\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
4 & 3 \\
1 & 2\\
\end{array}
\right)\]
を計算しましょう.この行列の積について,最初の行列の列の数と,後の行列の行の数がともに2で等しいので,積が定義できます.積の答えの行列は,\(2\)行\(2\)列になります.それぞれの成分を上の定義に従って,計算してみましょう.
\[
c_{\class{mathbg-g}{1 }\class{mathbg-b}{1}}=a_{\class{mathbg-g}{1}1}b_{1\class{mathbg-b}{1}}+a_{\class{mathbg-g}{1}2}b_{2\class{mathbg-b}{1}}=1\cdot 4+2\cdot 1=6\]\[c_{\class{mathbg-g}{1}\class{mathbg-b}{2}}=a_{\class{mathbg-g}{1}1}b_{1\class{mathbg-b}{2}}+a_{\class{mathbg-g}{1}2}b_{2\class{mathbg-b}{2}}=1\cdot 3+2\cdot 2=7\]\[c_{\class{mathbg-g}{2}\class{mathbg-b}{1}}=a_{\class{mathbg-g}{2}1}b_{1\class{mathbg-b}{1}}+a_{\class{mathbg-g}{2}2}b_{2\class{mathbg-b}{1}}=4\cdot 4+(-1)\cdot 1=15\]\[c_{\class{mathbg-g}{2}\class{mathbg-b}{2}}=a_{\class{mathbg-g}{2}1}b_{1\class{mathbg-b}{2}}+a_{\class{mathbg-g}{2}2}b_{2\class{mathbg-b}{2}}=4\cdot 3+(-1)\cdot 2=10\]
\[
\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 \\
4 & -1\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
4 & 3 \\
1 & 2\\
\end{array}
\right)=\left(
\begin{array}{ccc}
6 & 7 \\
15 & 10\\
\end{array}
\right)\]
積の\(\class{mathbg-g}{i}\class{mathbg-b}{j}\)成分が求めたければ,\(a_{\class{mathbg-g}{i}\diamondsuit}b_{\diamondsuit \class{mathbg-b}{j}}\)について\(\diamondsuit\)の部分に1から「最初の行の列の数(=後の行列の行の数)」までの全ての整数を入れ,総和すればいいのです.この「掛け合わせて総和する」というのはベクトルの内積にも似ている気がします.
これで積も計算できるようになったはずですが,まだ面倒です.もう少し実用的な計算方法があるのでそれを説明しましょう.

Ex)
\[
\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 0\\
4 & -1 & -2\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
4 & 3\\
1 & 2\\
5 & 1\\
\end{array}
\right)\]
を計算してみます.この行列の積について,最初の行列の列の数と,後の行列の行の数がともに3で等しいので,積が定義できます.積の答えの行列は,\(2\)行\(2\)列になります.

\[
\hspace{4cm}\left(
\begin{array}{ccc}
\fbox{4} & 3\\
\fbox{1} & 2\\
\fbox{5} & 1\\
\end{array}
\right)\\
\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 0\\
\fbox{4} & \fbox{-1} & \fbox{-2}\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
\diamondsuit & \diamondsuit \\
\heartsuit & \diamondsuit\\
\end{array}
\right)
\]

      1.図のように,掛け合わせたい行列を階段状に並べます.その右下の隙間に来るのが答えになる行列です.今からその行列の成分を埋めていきます.(このような図にすると,答えになる行列が2行2列であることが直ちにわかります).
      2.例えば答えの行列の\(\heartsuit\)の成分が求めたいとします.このとき,掛け合わせる行列の行と列のうち,\(\heartsuit\)と同じ行と列であるものをそれぞれ取り出してきます(図で四角で囲んだ部分).
      3.このとき,この2つはベクトルだと思うことができます.縦になっているか横になっているかは異なりますが,同じ次元(=成分の数)のベクトルになっているはずです(上の場合だと3次元ベクトルですね).ここでもしベクトルの次元が異なれば行列の積が定義できない,ということです.
      4.上記で考えたベクトルの内積を計算し,\(\heartsuit\)のところに書きます.イメージとしては,上の縦ベクトルを左のほうへ横にパタンと倒し,重なり合った成分同士を掛け合わせて総和する感じです.
      5.このような操作をすべての成分に対して計算してやると答えになる行列が右下に完成されます.

答えは,\[
\left(
\begin{array}{ccc}
6 & 7 \\
5 & 8\\
\end{array}
\right)\]です.

この計算でやっていることは,最初に説明した定義と同じです.ただこちらの方が解釈がしやすいということです.計算過程で自然に「この行列の積が計算できるか?」,「積の行列は何行何列か?」に対して答えが得られるのは非常に優秀です.
ただし,これはあくまでも図的な説明なので,証明などでは使えません.証明では最初に説明した定義を用いることになるので,定義の方も押さえる必要があります.


演習問題  解答はこちら
1.1 次の計算をせよ.計算ができないものも含まれている.
\[
(1)\;\left(
\begin{array}{ccc}
5 & 2 \\
4 & -7\\
\end{array}
\right)-\left(
\begin{array}{ccc}
3 & -3 \\
-1 & 9\\
\end{array}
\right)\;\;\;\;(2)\;\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 7 \\
3 & -1\\
\end{array}
\right)+\left(
\begin{array}{ccc}
4 & 6 & 9\\
-4 & -2 & 2\\
\end{array}
\right)\]
\[(3)\;\left(
\begin{array}{ccc}
5 & 2 \\
4 & -7\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
3 & -3 \\
-1 & 9\\
\end{array}
\right)\;\;\;\;(4)\;\left(
\begin{array}{ccc}
1 & 7 \\
3 & -1\\
\end{array}
\right)\left(
\begin{array}{ccc}
4 & 6 & 9\\
-4 & -2 & 2\\
\end{array}
\right)\]
1.2 積の交換法則は成り立たないと述べた.そこで次のような行列\(A\),\(B\)の例を挙げよ.
(1) 積\(AB\)は定義できるが,積\(BA\)は定義できない.
(2) \(A,B\)ともに2次平方行列で,積\(AB,BA\)の値が異なる.




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