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 前回,連立方程式は行列の左基本変形を用いることで解くことができるという話をしました.例えば前回の例2を挙げると

\begin{eqnarray}\begin{cases}
2x+y+3z & = 3 \\
x+y+2z & = 2 \\
x+y+z & = -4
\end{cases} &\Longleftrightarrow& \left(\begin{array}{cccc}
2 & 1 & 3 & 3\\
1 & 1 & 2 & 2\\
1 & 1 & 1 & -4
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x \\
y \\
z \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o} \\&\underset{★}{\Longleftrightarrow}&\left(\begin{array}{cccc}
1 & 1 & 2 & 2\\
0 & 1 & 1 & 1\\
0 & 0 & 1 & 6
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x \\
y \\
z \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o}\\&\Longleftrightarrow &
\begin{cases}
x +y +2z & = 2 \\
y+z & = 1 \\
z & = 6
\end{cases}\end{eqnarray}

としてやることで,連立方程式が簡単になるのでした.ここで大事なのは★のプロセスであり,ここで行列の基本変形を用いています.
 連立方程式を解くプロセスで用いる基本変形は,行(左)のみで,列(右)基本変形は用いることができません.そのため,定理5.2でみた「基本形」ほどは簡単にすることができず,せいぜい定理7.1でみたような「階段型」の行列(簡約行列と呼びました)に変形するのが限界なのです.しかし,連立方程式を解くにはこれで十分です.

 今回は前回に加えて,もう少し理論的に突っ込んでみることとします.
★のプロセスの結果,次のように,「0でない数が最も右の列しかない」ような行が出てきてしまったときはどうなるでしょうか.
\[\definecolor{e}{RGB}{100,255,65}\left(\begin{array}{cccccccccc}
& & 1 & \cdots & & & & & & \\
& & & & 1 & \cdots & & & & \\
& & & & & & \ddots & & & \\
{\color{e} 0}& {\color{e} 0}& {\color{e} 0}& {\color{e} \cdots}& {\color{e} 0}& {\color{e} \cdots}& {\color{e} \cdots} & {\color{e} 0}& {\color{e} 0}& {\color{e} 1}\\
& & & & & & & & & \\
& & & & & & & & &
\end{array}\right)\]例でみたらわかりやすいのでそうしましょう.

例1
 \[\definecolor{e}{RGB}{100,255,65}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 1 & 3 & 3\\
0 & 1 & 2 & 2\\
{\color{e} 0} & {\color{e} 0} & {\color{e} 0} & {\color{e} 1}
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x \\
y \\
z \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o}\]のようになった場合,これは\[\begin{cases}
x +y +3z & = 3 \\
y+2z & = 2 \\
-1 & = 0
\end{cases}\]と同値です.最後の式に着目するとこれは常に誤った式なので,この方程式は解を持ちません.このような式が出てきてしまったのは,「0でない数が最も右の列しかない」ような行のせいです.
このような場合が起こるのは次の時です:

命題8.1
連立方程式$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$において,$A$の拡大係数行列を$\widetilde{A}$とする(元の連立方程式を
$\widetilde{A}\mathbf{x}=\mathbf{o}$と書き直した時の$\widetilde{A}$のことである).このとき${\rm rank}A\neq {\rm rank}\widetilde{A}$ならば,この連立方程式は解を持たない.
proof $A$と$\widetilde{A}$に同時に同じ基本変形を施してみよう.$A$を簡約行列$S$にする基本変形を$\widetilde{A}$にも施すと,
\[\left(\begin{array}{cc}S & \mathbf{b’}\end{array}\right)\]という形になる.ただし$\mathbf{b’}$は何かの縦ベクトル.($A$と同じ基本変形を$\widetilde{A}$に施しただけなので,$\widetilde{A}$の最終列は何か残っているかもしれません.)
つまり$\widetilde{A}$は\[\left(\begin{array}{cccccccccc}
& & 1 & \cdots & & & & & & b_1\\
& & & & 1 & \cdots & & & & b_2\\
& & & & & & \ddots & & & \vdots\\
& & & & & & & 1&\cdots & b_r\\
0& 0 & 0 & \cdots & 0 & \cdots& \cdots & 0& \cdots& *\\
& & & & & & & & & \vdots \\
& & & & & & & & & *
\end{array}\right)\]となる.
ここで,${\rm rank}A\neq {\rm rank}\widetilde{A}$より$\mathbf{b}’$の$r+1$行目以降の部分(上の行列でいう$*$の部分)には少なくとも1つ$0$以外の数がある.これは上で説明したような「0でない数が最も右の列しかない」ような行が存在することになる.元の連立方程式に戻して考えると,矛盾した式が出てきてしまい,解は存在しないことになる.

実はこの命題の逆も成り立ちます.

命題8.2
連立方程式$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$において,$A$の拡大係数行列を$\widetilde{A}$とする.このとき${\rm rank}A= {\rm rank}\widetilde{A}$ならば,この連立方程式は解を持つ.
proof ${\rm rank}A= {\rm rank}\widetilde{A}$のとき,命題8.1の証明において,$*$の部分は全て$0$で次のような形になる:\[\definecolor{g}{RGB}{237,0,213}\left(\begin{array}{cccccccccc}
& & {\color{g} 1} & \cdots & & & & & & b_1\\
& & & & {\color{g} 1} & \cdots & & & & b_2\\
& & & & & & \ddots & & & \vdots\\
& & & & & & & {\color{g} 1}&\cdots & b_r\\
& & & & & & & & & 0\\
& & & & & & & & & \vdots \\
& & & & & & & & & 0
\end{array}\right)\]ここで$\definecolor{g}{RGB}{237,0,213}{\color{g} 1}$は,簡約行列において初めて$0$でない数が現れる場所であり,それが$(i,\sigma(i))$成分であるとする.これを元の連立方程式に戻すと,次のようになる:

\[\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\definecolor{g}{RGB}{237,0,213} \begin{cases}
{\color{e} {\color{g} 1}x_{\sigma(1)}}+c_{1,\sigma(1)+1}{\color{e} x_{\sigma(1)+1}}+\cdots+c_{(1n)}{\color{e} x_{n}} & = b_1 \\
{\color{g} 1}{\color{e} x_{\sigma(2)}}+c_{2,\sigma(2)+1}{\color{e} x_{\sigma(2)+1}}+\cdots+c_{(2n)}{\color{e} x_{n}} & = b_2 \\
&\vdots\\
{\color{g} 1}{\color{e} x_{\sigma(r)}}+c_{r,\sigma(r)+1}{\color{e} x_{\sigma(r)+1}}+\cdots+c_{(rn)}{\color{e} x_{n}} & = b_r
\end{cases}\]

ここで$\sigma(1)<\sigma(2)<\cdots <\sigma(r)$である.あとは,この方程式を下から解けば解が明示的に表せるだろう(下から解くのは,下の方が未知数$x_{\bullet}$の数が少ないからです)例えば一番下の式にまず着目して\[\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}{\color{e} x_{\sigma(r)}}+c_{r,\sigma(r)+1}{\color{e} x_{\sigma(r)+1}}+\cdots+c_{(rn)}{\color{e} x_{n}} = b_r \]について,$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}x_{\sigma(r)+1}$から$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}x_{n}$までの未知数は制限する式がなく,自由に動ける変数なので\[\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}{\color{e} x_{\sigma(r)+1}}={\color{f}t_{\sigma(r)+1}},…,{\color{e} x_{n}}={\color{f}t_{n}}\]とおく.すると
\[\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}{\color{e} x_{\sigma(r)}}=b_r-c_{r,\sigma(r)+1}{\color{f} t_{\sigma(r)+1}}-\cdots-c_{r,n}{\color{f} t_n}\]と表せる.続いて下から二番目の式に着目すると,
\[\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}{\color{e} x_{\sigma(r-1)}}+c_{r-1,\sigma(r-1)+1}{\color{e} x_{\sigma(r-1)+1}}+\cdots+c_{(r-1,n)}{\color{e} x_{n}} = b_{r-1}\]
$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}x_{\sigma(r-1)+1}$から$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}x_{\sigma(r)-1}$までの未知数は自由に動ける変数で,$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}x_{\sigma(r)}$以降の未知数は上記によってすでに定められているので,新たに\[\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}{\color{e} x_{\sigma(r-1)+1}}={\color{f}t_{\sigma(r-1)+1}},…,{\color{e} x_{\sigma(r)-1}}={\color{f}t_{\sigma(r)-1}}\]とおく.これらを下から二番目の式に代入することで$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}x_{\sigma(r-1)}$を再びパラメータ$\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}\color{f}t_{\bullet}$を用いて表すことができる.これを繰り返すことで,解$\definecolor{e}{RGB}{145,83,203}\color{e}(x_1,…,x_n)$は幾つかのパラメータ$\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}\color{f}t_{\bullet}$を用いることで表せる.

命題8.1,8.2をまとめておきます:

定理8.3
連立方程式$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$において,$A$の拡大係数行列を$\widetilde{A}$とする.このとき,
(1) この連立方程式が解を持つことと,${\rm rank}A= {\rm rank}\widetilde{A}$であることは同値.
(2) (1)であるとき,$A$の列の個数(つまり方程式の文字の個数)を$n$,$r={\rm rank}A= {\rm rank}\widetilde{A}$とおく.このとき解の全ては$n-r$個のパラメータを用いて表されている.
proof (1)についてはすでに証明済み.
(2) 用いたパラメータ$\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}\color{f}t_{\bullet}$の個数が解の自由度である.$\definecolor{f}{RGB}{237,170,0}\color{f}t_{\bullet}$の個数は,$A$の列数$n$から簡約行列$S$において$\definecolor{g}{RGB}{237,0,213} {\color{g}1}$が並ぶ個数$r$を引いたものであることが,上の証明から分かるので,$n-r$個.従って,解は$n-r$個のパラメータを用いて表現される.
定理8.4
$A$を$n$次正方行列とする.このとき,$A$が正則であることと,$\mathbf{o}$でない任意の$n$次縦ベクトル$\mathbf{x}$に対して$A\mathbf{x}\neq \mathbf{o}$となることは同値.
proof ($\Longrightarrow$) 背理法で示す.
ある$\mathbf{x}\neq \mathbf{o}$に対して$A\mathbf{x}=\mathbf{o}$となったとすると,$A$は正則より両辺左から$A^{-1}$をかけて,$\mathbf{x}=A^{-1}\mathbf{o}=\mathbf{o}$となる.これは矛盾.
($\Longleftarrow$) $A$が正則でないとすると,Thm.8.3(2)において$n-r\geq 1$であるから,解は自由に動けるパラメータを用いて表されるから(解が複数あるということ),必ず$A\mathbf{x}=\mathbf{o}$は$\mathbf{o}$以外の解を持つ.

以上抽象論をザーッと説明しましたが,何を言っているか最初はわからないと思います!というか添え字などが多すぎてカオスです.知っておいて欲しい大事な主張は定理8.3,8.4です.特に定理5.4は我々が問いとして定めていた「正則行列とは?」に対するもう1つの答えであります.証明はごちゃごちゃしているので,以下の例を通じてアルゴリズムがわかれば十分です.




例1

\[
\left(\begin{array}{cccc}
1 & 2 & 3 & 3\\
0 & 1 & 1 & 3\\
0 & 0 & 0 & 0
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x \\
y \\
z \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o}\Longleftrightarrow
\begin{cases}\begin{align}
x +2y &+ 3z & = 3 \\
y &+ z & = 3
\end{align}\end{cases}\]

もちろん普通問題として与えられる方程式はこんな綺麗な形はしていません.すでに基本変形を行って簡約行列にした後の形だと思ってください.
行列\[\definecolor{g}{RGB}{237,0,213}\left(\begin{array}{cccc}
{\color{g} 1} & 2 & 3 & 3\\
0 & {\color{g} 1} & 1 & 3\\
0 & 0 & 0 & 0
\end{array}\right)\]は「0でない数が最も右の列しかない」ような行が存在しませんから,${\rm rank}A={\rm rank}\widetilde{A}$です.そしてそのrankは$2$ですから,定理8.3によれば$3-2=1$個の解を用いてパラメータが表せるはずです.確認してみましょう.

命題8.2の証明中に述べたように「下から順番に」解きます.見て分かる通り,下の式は上の式に比べて変数が少ないですね.
$y+z=3$の先頭の変数は$y$,それ以外の変数$z$に対してパラメータを置くことで,$z=t$と表してあげると$y=3-t$になります.
続いて,$x+2y+3z=3$に移ります.先頭の変数は$x$で,$y,z$はすでに$t$を用いて現れていますから,\[x=3-2(3-t)-3t=-3-t\]となります.よって,
\[\begin{align}\left(\begin{array}{ccc}
x \\
y \\
z
\end{array}\right) &=\left(\begin{array}{cccc}
-3-t \\
3-t \\
t
\end{array}\right) \\ &=\left(\begin{array}{cccc}
-3\\
3\\
0
\end{array}\right)+t\left(\begin{array}{cccc}
-1\\
-1\\
1
\end{array}\right)\;\;\;(t\in\mathbb{R})\end{align}\]
例2

\[\definecolor{g}{RGB}{237,0,213}
\left(\begin{array}{cccccc}
{\color{g} 1} & 2 & 3 & 3 & 2 & 2\\
0 & 0 & {\color{g} 1} & 3 & 0 & 0\\
0 & 0 & 0 & 0 & {\color{g} 1} & 1\\
0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0\\
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4 \\
x_5 \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o}\Longleftrightarrow
\begin{cases}\begin{align}
x_1 +2x_2 + 3x_3 &+3x_4&+2x_5 & = 2\\
x_3 &+3x_4&&=0\\
&&x_5&= 1
\end{align}\end{cases}\]

これもすでに解きやすい形になっています.これは「0でない数が最も右の列しかない」ような行が存在しませんから,${\rm rank}A={\rm rank}\widetilde{A}$です.そしてそのrankは$3$ですから,定理8.3によれば$5-3=2$個の解を用いてパラメータが表せるはずです.確認してみましょう.

下から順番に方程式を解きます.$x_5=1$はもう解けてますね.
次に$x_3+3x_4=0$ですが,$x_3$がこの行先頭の未知数,それ以外で$x_4$が今回新出の未知数ですから$x_4=t$と変数を定めておきます.すると$x_3=-3t$ですね.
続いて一番上の行,$x_1 +2x_2 + 3x_3 +3x_4+2x_5= 2$です.$x_1$は先頭の未知数で,それを除いて$x_3,x_4,x_5$はすでにパラメータを用いて表しましたから$x_2$が新出の未知数です.よって$x_2=u$とすると,
\[x_1=2-2x_2-3x_3-3x_4-2x_5=2-2u-3(-3t)-3t-2\cdot 1=6t-2u\]となります.したがって,
\[\begin{align}\left(\begin{array}{ccccc}
x_1 \\
x_2 \\
x_3 \\
x_4 \\
x_5
\end{array}\right) &=\left(\begin{array}{ccccc}
6t-2u \\
u \\
-3t \\
t \\
1
\end{array}\right) \\&=\left(\begin{array}{ccccc}
0 \\
0 \\
0 \\
0 \\
1
\end{array}\right)+t\left(\begin{array}{ccccc}
6 \\
0 \\
-3 \\
1 \\
0
\end{array}\right)+u\left(\begin{array}{ccccc}
-2 \\
1 \\
0 \\
0 \\
0
\end{array}\right) \\
& (t,u\in\mathbb{R})\end{align}\]

まとめ
連立方程式は次のようにして解く.

・拡大係数行列を簡約行列にする
「0でない数が最も右の列しかない」ような行があったらその方程式は解がない
・それ以外のとき,連立方程式は解を持つ.下から順にパラメータを用いて解いていく.

分かりましたでしょうか.練習を積んで連立方程式を確実に解けるようにしましょう.





演習問題

8.1 次の連立方程式を解け.
$(1)\;\;\begin{cases}
x-y & = -2 \\
3x-y+z & = -2 \\
2x-y+2z & = -1 \\
y-z=1
\end{cases}$

$(2)\;\;\begin{cases}
3x-2y+z+v & = 2 \\
x-y+z-2w+v & = 1 \\
2x+y-3z+w+3v & = 2
\end{cases}$

8.2 次の連立方程式が解を持つように定数$p,q,r,s$を決定し,その時の解を求めよ.
\[\begin{cases}
2x+z & = p \\
x+2y+z+w & = q \\
-y-w & = r \\
x+y-z+4w & =s
\end{cases}\]

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