『数学のかんどころ32 可換環論の勘どころ』(共立出版)問題1.24より

 $n\geq 1$は自然数とする.次の主張が正しいことを証明せよ.
(1) 環$R={\rm M}_n(\mathbb{C})$のイデアルは,$R$と$\{0\}$だけである.
(2) どんな環準同型写像$\varphi :R\longrightarrow S$も単射である.

これの解答を与えることがこの記事の目的である.




解答
(1) $R$のイデアルで$\{0\}$でないもの$I$を考える.0でない$I$の元$A$が一つとれる.$A$は行列の基本変形によって
\[Q_1:=P^{-1}AP=\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
1& & &&\\
&\ddots & & &\\
& & 1 &&\\
& & & \\
& & &
\end{pmatrix}
\end{array} = \begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
E_r & O\\
O & O
\end{pmatrix}
\end{array}\]という形に変形できる.ただし,$P$は正則行列,$r$は1の並ぶ個数(1以上の自然数)である.$A\in I$よりもちろん$Q_1\in I$.
$Q_1$の行と列を交換することによって,例えば次で定義される行列$Q_2=(q^{(2)}_{ij})$を作ることができる:
\[q^{(2)}_{ij}=\begin{cases}
1\;\;(i=j\;{\rm and}\; 2\leq i\leq r+1) \\
0\;\;({\rm otherwise})
\end{cases}\]つまり,\[Q_2=
\begin{array}{rl}\begin{pmatrix}
0& & &&\\
& 1 & &&\\
& & \ddots& &\\
& & & 1&\\
& & & \\
& & &
\end{pmatrix}
\end{array}\]である.同様に$Q_k=(q^{(k)}_{ij})$を\[q^{(k)}_{ij}=\begin{cases}
1\;\;(i=j\;{\rm and}\; k\leq i\leq r+k-1) \\
0\;\;({\rm otherwise})
\end{cases}\]で定める($k=1,2,…,n-r+1$).
行や列の交換も基本変形で正則行列を掛けることで実行されるから,$Q_k\in I$であり,
$Q:=Q_1+Q_2+\cdots+Q_{n-r+1}\in I$は対角行列で,対角成分はすべて$0$でない.すなわち$Q$の行列式は$0$でなく,$Q$は正則である.従って,$E_n\in I$.$I=R$が従う.

(2) ${\rm Ker}\varphi$は$R$のイデアルより$R$もしくは$\{0\}$に等しい.${\rm Ker}\varphi =R$であると,$\varphi$は零写像になるが,零写像は準同型ではない.よって,${\rm Ker}\varphi=\{0\}$である.

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