前回は行列の演算について学びました.今回は,計算法則について主に見ていくこととします.

行列の計算法則

命題2.1

\(A,B,C\)などは行列とし,それぞれで演算ができるような型であるとする.
(つまり和を考えているなら型が同じ,積だったら初めの行列の列の数=後ろの行列の行の数が成り立つとします)
また\(\alpha\in \mathbb{K}\)とする.
(\(\mathbb{K}\)は\(\mathbb{R}\),または\(\mathbb{C}\)を表しました)
この時,次が成り立つ:

(1) \(A+B=B+A\)(交換法則)
(2) \((A+B)+C=A+(B+C)\),\((AB)C=A(BC)\)(結合法則)
(3) \(A(B+C)=AB+AC\),\((A+B)C=AC+BC\)(分配法則)
(4) \(\alpha (AB)=A(\alpha B)\) ◆

前回も述べた通り,積の交換法則は成り立ちません.逆にそれ以外であれば許されます.
証明は,「積の定義」を理解する練習として,(2)の積の結合法則だけ見ることとします.(3)の前半についてを演習問題とします.他は直感的に当たり前です.

proof of (2)後半

\(A=(a_{ij})_{1\leq j \leq q}^{ 1\leq i \leq p} \), \(B=(b_{ij})_{1\leq j \leq r}^{ 1\leq i \leq q} \), \(C=(c_{ij})_{1\leq j \leq s}^{ 1\leq i \leq r} \)とする.
(つまり,\(A\)は\(p\)行\(q\)列,以下同様です.積が定義できるように設定したことに注意してください)
\(AB\)の\(ij\)成分(=\(i\)行\(j\)列成分)は,\(\displaystyle\sum_{k=1}^q a_{ik}b_{kj}\)である.
(\(AB\)は\(p\times q\)行列と\(q\times r\)行列の積で\(p\times r\)行列です)
\((AB)C\)の\(ij\)成分は,\(\displaystyle\sum_{l=1}^{r}\left(\sum_{k=1}^q a_{ik}b_{kl}\right)c_{lj}\)である.
(\((AB)C\)は\(p\times r\)行列と\(r\times s\)行列の積で\(p\times s\)行列です)

同様に,\(A(BC)\)も計算する.
\(BC\)の\(ij\)成分は,\(\displaystyle\sum_{l=1}^r b_{il}c_{lj}\)である.
\(A(BC)\)の\(ij\)成分は,\(\displaystyle\sum_{k=1}^{q} a_{ik}\left(\sum_{l=1}^rb_{kl}c_{lj}\right)\)である.
\[\displaystyle\sum_{l=1}^{r}\left(\sum_{k=1}^q a_{ik}b_{kl}\right)c_{lj}=\sum_{k,l} a_{ik}b_{kl}c_{lj}=\sum_{k=1}^{q} a_{ik}\left(\sum_{l=1}^rb_{kl}c_{lj}\right)\]より,示された.◆

※大学に入ると和の記号の使い方がより柔軟になります.\(\displaystyle \sum_{1\leq k\leq 4},k\in\mathbb{Z}\)と書けば,\(k\)が1から4までの整数を動くときの和を表します,つまり高校までの表し方である\(\displaystyle \sum_{k=1}^{4}\)と同じ意味です.例えば\(\displaystyle \sum_{k|n}\)と書けば\(n\)の約数となる\(k\)に対して和を取れ,という意味です(\(k|n\)は「\(k\)は\(n\)の約数」という意味を表す記号です).今回の\(\displaystyle\sum_{k,l}\)は\(k\)と\(l\)を動かして和を取れ,と言っていますが他の条件はついていません.そのようなときは適当な文脈で読みます.それまでの議論で\(1\leq k \leq q\)などとしていたので,そのような範囲で和を取れ,ということです.これは文脈に頼る略記ですのであまりよくはないです.答案での多用をやめましょう.




特別な行列
特別な行列が2つあるので,それをまず押さえましょう.

  • 零行列
    成分がすべて0(ゼロ)である行列を零行列といい,\(O\)(アルファベットのオー)で表す.
  • 単位行列 
    \(n\)次正方行列(\(n\times n\)行列,正方形の形をした行列)であって,対角成分(正方形の左上から右下へ対角線上に並んだ成分)が1,それ以外がすべて0の行列を単位行列という.すなわち,\(A=(a_{ij})\)が単位行列であるとは,\[ a_{ii}=1\; (1\leq i \leq n)\]\[ a_{ij}=0\; (i\neq j)\]なる行列であるときを言う.
    \(n\)次単位行列を特に\(E_n,I_n\)などと書く.ここでは\(E_n\)を採用する.例えば,\[E_3=\left(
    \begin{array}{ccc}
    1 & 0 & 0 \\
    0 & 1 & 0 \\
    0 & 0 & 1
    \end{array}
    \right)\]

この2つの行列はとても大事です.以下の性質が成り立ちます.

命題2.2

\(A\)を任意の行列とする.
(1) \(A+O=O+A=A\)
(2) \(AE=EA=A\)
(3) \(AO=OA=O\) ◆

簡単に言えば,零行列\(O\)は実数における0,単位行列\(E\)は実数における1みたいなものです.0になにを足しても,あるいは1になにをかけても値は変わりません.0になにをかけても0です.このような性質を持っているのが,零行列,単位行列です.これらの命題の証明は簡単(当たり前,自明,trivial)ですのでここでは省略します.

転置行列

行列\(A=(a_{ij})\)に対して,\(^tA=(a_{ji})\)を\(A\)の転置行列と言います.転置行列の\(ij\)成分は,元の行列の\(ji\)成分なのですから,すなわち対角線に関してひっくり返した行列が転置行列です.

行列を転置させると,当然行列の型も変わります.\((p,q)\)型行列は\((q,p)\)型になります.

\[
A = \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 2 & 3 \\
4 & 5 & 6 \\
\end{array}
\right)\]に対しては,\[
^tA = \left(
\begin{array}{ccc}
1 & 4 \\
2 & 5 \\
4 & 6
\end{array}
\right)\]です.

命題2.3

\(^t\!(A+B)=^t\!A+^t\!B,^t\!(AB)=^t\!B^t\!A\)である.

proof

前者は自明.\(A\)を\((p,q)\)型行列,\(B\)を\((q,r)\)型行列として,\(A=(a_{ij}),B=(b_{ij})\)とすると,\(AB\)の\((i,j)\)成分は\(\displaystyle \sum_{k=1}^q a_{ik}b_{kj}\)であったから,\(^t\!(AB)\)の\((i,j)\)成分は\(i\)と\(j\)を入れ替えて\(\displaystyle \sum_{k=1}^q a_{jk}b_{ki}\)である.
また,\(^t\!A=(a_{ji})\),\(^t\!B=(b_{ji})\)だから\(^t\!B^t\!A\)の\((i,j)\)成分は\(\displaystyle \sum_{k=1}^q b_{ki}a_{jk}\)である.
よって示された.





演習問題

2.1 命題.2.1(3)の前半の主張,\(A(B+C)=AB+AC\)を示せ.

2.2 実数\(a,b\)に対しては「\(ab=0\)ならば\(a=0\)または\(b=0\)」が成り立った.行列ではこれが成り立たない.そこで,2次正方行列\(A,B\)であって\(AB=0\)であるにもかかわらず\(A\neq 0\)かつ\(B\neq 0\)であるような例を挙げよ.
以下意味がわからない人は落書きだと思ってください:このような性質が成り立つ環を整域(domain)という

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