!!!はじめに!!!
 この記事は,「数学におけるカンマの扱い」の(教育)現状に関して,問題提起が必要だと感じて投稿しました.従って,この記事の第一の目的は「問題提起」です.特定の方法による解決を促すものではなく,記事後半はあくまで一人の意見を述べたものであります.もし他の「カンマの使い方」の例を見つけた方,これに賛同しない意見をお持ちの方は是非ご連絡してください.今後の数学教育のためにも,皆さんがこのことを問題として認識していただければ幸いです.

 
幾つかのカンマの使用例

 まずは,次の5つの例を見ていただきたい.

  1. 方程式$x^2-3x+2=0$の解は$x=1,2$である.
  2. $i=1,2,3,…$について$x_i>0$とする.(以下略)
  3. $a,b>0$とする.2次方程式$x^2-ax+b=0$について…(以下略)
  4. 不等式$(x-1)(x-2)>0$の解は$x\lt 1,2\lt x$である.
  5. $x\gt 0,y\leq 2x+1$で表される領域について…(以下略)

赤字にした部分について,それぞれのカンマ,“はどういった意味を持っているだろうか.

  1. 中学・高校の数学においてはよく見られる表現である.方程式の解が$x=1$または$x=2$であることを意味している.
  2. または」のニュアンスで使われている.「$i$が$1$のときか,$2$のときか,…は$x_i\gt 0$」という場合分け,条件付けを表す表現である.
  3. 中学・高校では用いられることはほとんどなく,大学以降・数学書で頻繁に用いられる記法である.これは「かつ」の意味の不等号であり,他にも$a,b\in\mathbb{R}$といった使い方もよく見られる.
  4. これは解が「$x\lt 1$または$2\lt x$」の二つの領域であることを表している.
  5. これは「かつ」の意味である.$x\gt 0$と$y\leq 2x+1$という二つの領域の共通部分を表していると考えられる表記である.$x\gt 0$もみたし,かつ$y\leq 2x+1$も満たす,という具合に.

 このように,数式においてカンマを用いる場合,「かつ」と「または」の全く異なる論理記号の意味合いで用いられている.「かつ」と捉えるか「または」と捉えるかは完全に読者に委ねられている現状がある.次の節でそれぞれについて考察を行う.




使用例に対する考察・意見

 1〜5の中で4,5は命題と命題を結ぶ論理演算子「かつ$\wedge$」「または$\vee$」を省略している書き方である.例えば5は,$x\lt 1$と$2\lt x$は命題として成立していて,カンマはそれらを結ぶ「または」という言葉の省略であると考えることができる.どちらかというと4の方が高校数学では浸透しているので,5が「良くない書き方」であるとみられ,避けられている現状があるように感じる.
 4については「かつ」と解釈すると「$\emptyset$(解なし)」になってしまい,「解なし」をあえて「$x\lt 1$,$2\lt x$」と表現する不自然な表現になってしまう.従ってこれについて「または」と解釈するのが普通である.しかし,5のように$xy$平面上の領域を言葉で説明する際,カンマは「かつ」と捉えられてしまうことが多い.1次元の領域の場合は「または」と捉え,2次元の場合は「かつ」と捉えるのは全くナンセンスなルールである.
 これについては,「かつ」もしくは「または」を明確に示すだけで問題を解決することができるので,積極的にそのようにするべきである.

 1〜5の中で本来なら数学的に通用しない記述をしているのは1,2,3であり,これらは略記であると認めるべきであろう.例えば,1の$x=1,2$について,イコールは本来2つの項の関係を述べる記号であるはずなのに,$x,1,2$の三者が登場しているので,本来ならば相応しくない記法である.そのときに,等号を用いてしばしば使われる1,2のような書き方は「または」として認識され,不等号や$\in$を用いて使われる3のような書き方は「かつ」として認識される.
 1,2の例と3の例の大きな違いは,「1つの変数複数の値をとる」という書き方をしているか,「複数の変数1つの条件を満たす」という書き方をしているか,ということである.それぞれを「A is B」と英語表記することを考える.前者のようにBにあたる部分(述語,結論部分)が枝分かれする際には,1,2のように「または」の意味で解釈され,後者のようにAにあたる部分(主語,仮定部分)が枝分かれする場合は3のように「かつ」の意味で解釈される,というルールがあるように感じる.
 いずれにせよ,これはあくまで略記なので教育的によろしくないことは間違いない.中学・高校では,1,2の例が用いられるだけで「かつ」の意味で用いられる3の用法は用いられない(避けられている?).1,2の使い方は,深く浸透してしまっている(検定教科書も採用している)以上今更やめることも難しい.特に2の場合は,「$i=1,2,…$」という無限個の値をとることもあり,「$i=1$または$i=2$または$i=3$…」ときちんと書けないため,非常に便利な書き方であることは否定できない.そのような便宜上の現状を踏まえると,(本来ならばちゃんとした書き方をするべきだが,)妥協として,混乱の元となる3の使い方は中学・高校の数学教育の場では用いるべきではないと考える.

意見のまとめ
  • 略記については,
    1つの変数複数の値をとる」→「または」の意味
    複数の変数1つの条件を満たす」→「かつ」の意味
    で用いられることが多い.中学・高校ではほとんどの場合前者のみの使い方が使用され,それが深く浸透している.従って,使用するのはせめて前者のような使い方のみにすべきで,中学・高校で後者のような使い方をすることは教育上望ましくないと考える.
  • 略記でない記法については,「かつ」もしくは「または」の論理演算子を明確にして表すべきである.

追記(3.12.2018):
ご指摘がありましたが,「$a>0,a\neq 1$を底とする対数を考える…」は「かつ」の意味で用いられているので,「一つの条件が複数の値をとる場合は『または』」ということの反例になっているようです.

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