簡約行列

 定理5.2で紹介した行列の基本形は「簡単な形すぎて(変形しすぎて)」いて,行列のrankを求めるだけの作業ではちょっと余分に計算してしまっているような気がします.rankをもう少し簡単に求めるために,次のような行列を最終形とすることもあります.

定理7.1
(1) 任意の行列は左基本変形のみを行うと,ある自然数$r$が存在して,

  • $i$行目($1\leq i\leq r$)では,左からしばらくは$0$のみが並ぶ($0$が並ばないこともある).そして,左から数えて初めて現れる$0$でない成分は必ず$1$になっている.
  • $i$行目($r \gt i$)の成分はすべて$0$である.
  • $i$行目($1\leq i\leq r$)において左から数えて初めて現れる$0$でない成分が,行列の$(i,a_i)$成分であるとする.このとき
    \[a_1\lt a_2\lt\cdots\lt a_r\]
    が成立する.
  • $i$行目($i > r$)の成分はすべて$0$である.

という形にできる.

これを簡約行列という.以下のような形をしている:
\[\definecolor{g}{RGB}{237,0,213}\left(\begin{array}{cccccccccc}
& & {\color{g} 1} & \cdots & & & & & & \\
& & & & {\color{g} 1} & \cdots & & & & \\
& & & & & & \ddots & & & \\
& & & & & & & {\color{g} 1}&\cdots & \\
& & & & & & & & & \\
& & & & & & & & &
\end{array}\right)\]
(2) (1)における$r$はその行列のrankである.

proof (1) 以下の例をみればわかるだろう.
(2) 簡約行列から基本変形をすることで,$(i,a_i)$成分の1が$r$個並んだ(Thm5.2で説明した)基本形に変形できることはすぐにわかる.よって$r$はその行列のrankである.


\[\left(\begin{array}{cccc}
0 & 1 & 1\\
3 & 4 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\]を基本変形する.\[\left(\begin{array}{cccc}
0 & 1 & 1\\
3 & 4 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\underset{{\rm 1行と2行交換}}{\longrightarrow}\left(\begin{array}{cccc}
3 & 4 & 1\\
0 & 1 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\overset{}{\underset{{\rm 2行目-1行\times 2/3}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\overset{}{\underset{{\rm 3行-1行\times 2}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1\\
0 & -8/3 & 1/3
\end{array}\right)\]\[\overset{★}{\underset{{\rm 3列+2列\times 8/3}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1\\
0 & 0 & 3
\end{array}\right)\overset{}{\underset{{\rm 3行\times 1/3}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1\\
0 & 0 & 1
\end{array}\right)
\]これが簡約行列.

先ほどと違うのは,★において(1,2)成分が0になるように掃き出さなかったこと,最終形において$(3,1),(3,2)$成分が$0$になるように掃き出さなかったことである.これらの成分は,掃き出しても掃き出さなかくてもrankには影響しない.
 「基本変形をしていったときに,何行目まで0でない成分が現れ続けるか」がrankの意味するところである.1行目,2行目,…と基本変形をしていく際に関心があるのは「次の行で0でない成分が現れるか?」ということなので例えば3行目を要にして基本変形をしている時にはその上の1行目や2行目にはすでに関心がない.関心がないところは時間の無駄だから掃き出さない,それがこの簡約行列のポイントである.

 最後の行まで0でない成分が残ったので,この行列はrank 3である.
 


\[\left(\begin{array}{cccc}
0 & 1 & 1 & 0\\
3 & 4 & 1 & 1\\
3 & 3 & 0 & 1
\end{array}\right)\]
を基本変形する.
\[\overset{}{\underset{{\rm 1行と2行の交換}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1 & 0\\
3 & 3 & 0 & 1
\end{array}\right) \overset{}{\underset{{\rm 3行-1行\times 3}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1 & 0\\
0 & -1 & -1 & 0
\end{array}\right) \overset{}{\underset{{\rm 3行+2行}}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1 & 0\\
0 & 0 & 0 & 0
\end{array}\right) \]これが簡約行列. この行列はrank 2である.




連立1次方程式の解き方

 この基本変形という概念は連立1次方程式に応用することができます.今回は基本変形を用いて一般の連立方程式を具体的に解く方法を紹介します.次回ではもう少し構造的な側面を解説したいと思います.
$a_{\bullet}$,$c_{\bullet}$を$\mathbb{K}$の元として$x_{\bullet}$に関する連立方程式
\[\begin{cases}
a_{11}x_1+a_{12}x_2+…+a_{1n}x_n & = c_1 \\
a_{21}x_1+a_{22}x_2+…+a_{2n}x_n & = c_2 \\
   \vdots \tag{★}\\
a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+…+a_{mn}x_n & = c_m
\end{cases} \]
を解くことを考えてみます.これは,行列を用いると$A=(a_{ij})$(係数行列という),$\mathbf{x}=(x_1\; x_2 \; … \; x_n)^{\rm T},\mathbf{b}=(c_1\; c_2 \; … \; c_m)^{\rm T}$として\[(★)\Longleftrightarrow A\mathbf{x}=\mathbf{b}\]と表現できます.(${\rm T}$は行列の転置を表します.つまりここでは$\mathbf{x},\mathbf{b}$はたてベクトルだと思うことにします)これを用いても,連立方程式を直接解くことはできますが(例1参照),もう少し都合のいい形に変えてみることを考えてみます.
\[\widetilde{A}=(A\:\mathbf{b})=\left(\begin{array}{ccccc}
a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} & c_1 \\
a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} & c_2 \\
\vdots & \vdots & \ddots & \vdots & \vdots\\
a_{m1} & a_{m2} & \cdots& a_{mn} & c_m
\end{array}\right), \widetilde{\mathbf{x}}=(x_1\; x_2\; …\; x_n \: -1)^{\rm T}\]とすると\[(★)\Longleftrightarrow \widetilde{A}\widetilde{\mathbf{x}}=\mathbf{o}\]
とかけます.ここで左基本変形は正則行列を左から掛けることでしたから,
\[(★)\Longleftrightarrow P\widetilde{A}\widetilde{\mathbf{x}}=P\mathbf{o}\Longleftrightarrow P\widetilde{A}\widetilde{\mathbf{x}}=\mathbf{o}\]となります.したがって元の連立方程式(★)の代わりに$P\widetilde{A}\widetilde{\mathbf{x}}=\mathbf{o}$を解けばいいことになります.ここで,$P\widetilde{A}$が簡単になるようにうまく$P$を選んであげれば,$P\widetilde{A}\widetilde{\mathbf{x}}=\mathbf{o}$は解きやすくなりますよね.

例1$A\mathbf{x}=\mathbf{b}$を用いて直接方程式を解く例
\[\begin{cases}
2x+y & = 3 \\
x+y& = 2 \\
\end{cases} \]
を解く.
\[\left(\begin{array}{cc}
2 & 1 \\
1 & 1
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}x\\ y \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}3\\ 2 \end{array}\right)\tag{1}\]
$ A=\left(\begin{array}{cc}
2 & 1 \\
1 & 1
\end{array}\right)$は正則行列で,$A^{-1}=\left(\begin{array}{cc}
1 & -1 \\
-1 & 2
\end{array}\right)$だから$(1)$の両辺に左から$A^{-1}$をかけて
\[\left(\begin{array}{cc}x\\ y \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}
1 & -1 \\
-1 & 2
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}3\\ 2 \end{array}\right)=\left(\begin{array}{cc}1\\ 1 \end{array}\right)\]

例2簡約行列を用いて方程式を解く例
\[\begin{cases}
2x+y+3z & = 3 \\
x+y+2z & = 2 \\
x+y+z & = -4
\end{cases} \]
を解く.\[\left(\begin{array}{cccc}
2 & 1 & 3 & 3\\
1 & 1 & 2 & 2\\
1 & 1 & 1 & -4
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x \\
y \\
z \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o}\]

\[
\left(\begin{array}{cccc}
2 & 1 & 3 & 3\\
1 & 1 & 2 & 2\\
1 & 1 & 1 & -4
\end{array}\right)\underset{{\rm 行の交換}}{\longrightarrow}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 1 & 2 & 2\\
2 & 1 & 3 & 3\\
1 & 1 & 1 & -4
\end{array}\right)\underset{掃き出し}{\longrightarrow}
\left(\begin{array}{cccc}
1 & 1 & 2 & 2\\
0 & -1 & -1 & -1\\
0 & 0 & -1 & -6
\end{array}\right)
\underset{行の定数倍}{\longrightarrow}
\left(\begin{array}{cccc}
1 & 1 & 2 & 2\\
0 & 1 & 1 & 1\\
0 & 0 & 1 & 6
\end{array}\right)
\]
従って,元の連立方程式は
\[
\left(\begin{array}{cccc}
1 & 1 & 2 & 2\\
0 & 1 & 1 & 1\\
0 & 0 & 1 & 6
\end{array}\right)\left(\begin{array}{cc}
x \\
y \\
z \\
-1
\end{array}\right)=\mathbf{o}\Longleftrightarrow
\begin{cases}
x +y +2z & = 2 \\
y+z & = 1 \\
z & = 6
\end{cases}\]
これを解いて$(x,y,z)=(-5,-5,6)$を得る.

連立方程式解く際には,左基本変形のみ行うことができる(行に関する操作のみできる)ということはとても大事です.$\widetilde{A}\widetilde{\mathbf{x}}=\mathbf{o}$において$\widetilde{A}$の右から正則行列を掛けられないから列の基本変形はできないのです.左基本変形を施すことによって,拡大係数行列$\widetilde{A}$を簡単なものにし,方程式を解きやすくする,それによってどんな連立1次方程式も解くことができるのです.

世の中の連立方程式は解が一意に定まるものばかりではありません.解がなかったり,解が複数あったりするものもあります.が,上記の方法を使えばそのような方程式の解も判定することができます.それは次週.





演習問題

7.1 次の連立方程式を,例1(逆行列を利用する),例2(簡約行列を利用する)の両方の方法で解け.
\[(1)\; \begin{cases}
x+y & = 3 \\
2x+5y& = 9 \\
\end{cases} \]\[(2)\; \begin{cases}
x+y+z & = 3 \\
x+2y+2z & = 5 \\
x+2y+3z & = 6
\end{cases} \]

7.2$k$を定数とする.連立方程式\[\; \begin{cases}
x+y & = 3 \\
2x+2y& = k \\
\end{cases} \]の解を,$k$の値で場合分けをして述べよ.

7.3 演習問題7.2の方程式を例1(逆行列)の方法で解こうと思っても解くことができない.それは,\[\left(\begin{array}{cc}
1 & 1 \\
2 & 2
\end{array}\right)\]が逆行列を持たないからである.そのことに注目して連立方程式\[\; \begin{cases}
ax+by & = c \\
dx+ey& = f \\
\end{cases} \]が解をただ1つ持つことと,行列\[\left(\begin{array}{cc}
a & b \\
d & e
\end{array}\right)\]が正則であることが同値であることを示せ.

目次へ 前のページへ 次のページへ 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です