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次の6つの操作を行列に施すことを,基本変形と言います.Rの$3$つを右基本変形,Lの$3$つを左基本変形と言います.あとあと理由はわかりますが,どちらかというと,左基本変形の方が大事です.

(R1) $2$つの列を入れ換える.
(R2) ある列を$0$でない定数倍する.
(R3) ある列に,他の列の定数倍を足す.
(L1) $2$つの行を入れ換える.
(L2) ある行を$0$でない定数倍する.
(L3) ある行に,他の行の定数倍を足す.

命題5.1
右基本変形はある正則行列を右から掛けることに,左基本変形はある正則行列を左から掛けることによって起こる.
proof 左基本変形の場合のみを示す.右も同様.

$i$行目と$j$行目を入れ替える(L1)変形を施すには,\[L_1=
\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
& \ddots&&&& &&&&\\
&& 1&&&&&&&\\
&&&0&\cdots&\cdots&\cdots&1&&\\
& &&\vdots&1&&&\vdots&&\\
&&&\vdots&&\ddots&&\vdots&&\\
&&&\vdots & &&1&\vdots&&\\
&&&1&\cdots&\cdots&\cdots&0&&\\
& & && & & & &1 &\\
&&&&&&&&&\ddots
\end{pmatrix}
\end{array}
\]なる行列を左からかける.
これは,単位行列において$(i,i),(j,j)$成分を$0$にして,$(i,j),(j,i)$成分を$1$に変えた行列である.

$i$行目を$c\neq 0$倍する(L2)変形を施すには,\[L_2=
\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
1& &&&&&\\
&\ddots &&&&&\\
& & 1 &&&&\\
& & & c &&&\\
&&&& 1 &&\\
&&&&&\ddots &\\
&&&&&& 1\\
\end{pmatrix}
\end{array}
\]
なる行列を左からかければ良い.
これは,単位行列において$(i,i)$成分を$c$に変えた行列である.

$i$行目に$j$行目の$c\neq 0$倍を加える(L3)変形を施すには,\[L_3=
\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
1& &&&&&\\
&\ddots &&&&&\\
& & 1 &&&&\\
& & \vdots & \ddots &&&\\
&&c&\cdots& 1 &&\\
&&&&&\ddots &\\
&&&&&& 1\\
\end{pmatrix}
\end{array}
\]なる行列を左からかければ良い.
これは,単位行列で$(i,j)$成分を$c$に変えた行列である.

$L_1,L_2,L_3$が正則行列であることをcheckする.$L_1$の逆行列は$L_1$自身.$L_2,L_3$の逆行列は次:

\begin{equation*}L_2^{-1}=
\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
1& &&&&&\\
&\ddots &&&&&\\
& & 1 &&&&\\
& & & c^{-1}&&&\\
&&&& 1 &&\\
&&&&&\ddots &\\
&&&&&& 1\\
\end{pmatrix}
\end{array},L_3^{-1}=
\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
1& &&&&&\\
&\ddots &&&&&\\
& & 1 &&&&\\
& & \vdots & \ddots &&&\\
&&-c&\cdots& 1 &&\\
&&&&&\ddots &\\
&&&&&& 1\\
\end{pmatrix}
\end{array}
\end{equation*}

$L_1,L_2,L_3$の逆行列については,実際に上のように表したものに対して,積を具体的に計算することで確認できますが,基本変形の意味を考えることでも理解することができます.
単位行列$E$はどんな行列をかけても変化させないので,単位行列$E$は「行列を変化させない基本変形」だと思うことができます.
$L_1$について,$i$行目と$j$行目を入れ替える操作を$2$回行うと元に戻るから,「操作(L1)を2回やる=行列を変化させない」ということです.このことより,$L_1L_1=E$です.
$L_2$について,ある行を$c$倍したら,その行を$c^{-1}$倍することで元に戻りますから,$L_2$の逆行列は上記のようになります.
$L_3$について,ある行pに別の行qの$c$倍してから,その行qの$-c$倍を加えたら元に戻るので,$L_3$の逆行列は上記のようになります.




基本変形によって,掃き出しという操作ができます.例をみた方が早いので,そうしましょう.

例1

\[\left(\begin{array}{cccc}
0 & 1 & 1\\
3 & 4 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\]
を基本変形する.
\[\left(\begin{array}{cccc}
0 & 1 & 1\\
3 & 4 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\underset{(L1)}{\longrightarrow}\left(\begin{array}{cccc}
3 & 4 & 1\\
0 & 1 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\overset{\alpha}{\underset{(L2)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1\\
2 & 0 & 1
\end{array}\right)\overset{\beta}{\underset{(L3)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 4/3 & 1/3\\
0 & 1 & 1\\
0 & -8/3 & 1/3
\end{array}\right)\]\[\overset{\gamma}{\underset{(R3)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0\\
0 & 1 & 1\\
0 & -8/3 & 1/3
\end{array}\right)
\]
<上記で行っている変形>
(L1) 1行目と2行目の交換
(L2) 1行目×1/3
(L3) 3行目-1行目×2
(R3) 2列目-1列目×4/3,3列目-1列目×1/3

$\alpha$と$\beta$の基本変形では,(1,1)成分をまず1にして,そのあと第1列の他の成分を0にしています.この操作を,(1,1)成分を要にして第1列を掃き出すといいます.
$\gamma$の基本変形では,(1,1)成分を1のまま,第1行の他の成分を0にしています.これを(1,1)成分を要にして第1行を掃き出すと言います.

第1行と第1列に対してのみ行いましたが,続いて第2行,第2列に対して続けます.
\[\overset{}{\underset{(L3)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0\\
0 & 1 & 1\\
0 & 0 & 3
\end{array}\right) \overset{}{\underset{(R3)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0\\
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 3
\end{array}\right) \overset{}{\underset{(R2)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0\\
0 & 1 & 0\\
0 & 0 & 1
\end{array}\right)
\]
<上記で行っている変形>
(L3) 3行目+2行目×8/3
(R3) 3列目-2列目 
(L2) 3行目×1/3

単位行列$E_3$になりました.(L3)では(2,2)成分を要にして第3行を掃き出していて,(R3)では$(2,2)$成分を要にして第3列を掃き出しています.ここで基本変形を終わりにします.これ以上簡単にはなりません.

例2

\[\left(\begin{array}{cccc}
0 & 1 & 1 & 0\\
3 & 4 & 1 & 1\\
3 & 3 & 0 & 1
\end{array}\right)\]
を基本変形する.
\[\overset{}{\underset{(R1)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 1 & 0\\
4 & 3 & 1 & 1\\
3 & 3 & 0 & 1
\end{array}\right) \overset{}{\underset{(1,1)を要}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & 3 & -3 & 1\\
0 & 3 & -3 & 1
\end{array}\right) \overset{}{\underset{(R1)}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & 1 & -3 & 3\\
0 & 1 & -3 & 3
\end{array}\right) \]\[\overset{}{\underset{(2,2)を要}{\longrightarrow}}\left(\begin{array}{cccc}
1 & 0 & 0 & 0\\
0 & 1 & 0 & 0\\
0 & 0 & 0 & 0
\end{array}\right)\]
<上記で行っている変形>
(R1) 1列目と2列目の交換
(1,1)を要に1行目と1列目を掃出し
(R1) 2列目と4列目の交換
(2,2)を要に2行目と2列目を掃出し

単位行列の出来損ないみたいな形になりました.ここで基本変形を終わりにします.これ以上簡単にはなりません.

基本変形を用いて「掃き出し」という操作ができる.これを繰り返すことで行列をシンプルなものに変形することができる.このことを定理としてまとめておきます:

定理5.2
すべての行列は,基本変形すなわち
各$i$について,$i=1$から順に
($i$-a)$(i,i)$成分に$0$でない数がくるように,「$i$行目及び$i$列目」以降の範囲で,行と列を入れ換える(これが不可能ならば終了).
($i$-b)$(i,i)$行目を要にして,$i$行目と$i$列目を掃き出す.
という操作を繰り返すことで,
\[
\begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
1& & &&\\
&\ddots & & &\\
& & 1 &&\\
& & & \\
& & &
\end{pmatrix}
\end{array} = \begin{array}{rl}
\begin{pmatrix}
E_r & O\\
O & O
\end{pmatrix}
\end{array}\]
という基本形に変形できる.

どのような行列も,基本変形を繰り返すことで,左上から1が幾つか並び,他の成分がすべて0という「単位行列に似たシンプルな形」に変形できる,というのがこの定理の主張です.理論面においても大変大事な主張ではありますが,まずは計算できるようになりましょう(理論面の補強については,次回やります).6種類の基本変形を用いて,この「シンプルな形」に変形できるようになることが今回の目標です.以下のExerciseでもよく練習しておきましょう.





演習問題

5.1 上記の例1(Ex1)における3つの変形$\alpha,\beta,\gamma$は,行列の積によって説明すると,どのような行列をどのような方向(左or右)から掛けることに対応しているか,その行列を具体的に示せ.

5.2 上記の例1(Ex1)における3つの変形$\alpha,\beta,\gamma$は,この順で変形を行っている.
$\alpha,\gamma,\beta$の順で行うと結果は異なるであろうか?あるいは$\beta,\alpha,\gamma$の順で行うと結果は異なるであろうか?考察せよ.

5.3 次の行列に基本変形を施して,左上から1がいくつか並び,その他の成分がすべて0である基本行列に変形せよ.
\[(1)\;\left(\begin{array}{cccc}
2 & -3 & 1 \\
1 & 2 & 3 \\
1 & 9 & 8
\end{array}\right)\;\;\;(2)\left(\begin{array}{cccc}
2 & -3 & 1 & 1\\
1 & 2 & 3 & 2\\
1 & 9 & 8 & 4
\end{array}\right)\]\[(3)\;\left(\begin{array}{cccc}
1 & 2 & 3 \\
2 & 3 & 4 \\
1 & 0 & 0
\end{array}\right)\]

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